北海道で起きた震災が教えてくれた「平時の備え」の重要性

2018年9月6日未明、北海道胆振東部地震が発生し、道内ほぼ全域が停電するという前例のない「ブラックアウト」が起きました。この出来事は、多くの医療・福祉関係者に深刻な問いを突きつけました。在宅酸素療法を受けている患者さんの機器は止まらないか、人工呼吸器を使用している方のご家族は電源をどこで確保するのか、独居の高齢者は誰が安否を確認するのか。行政の避難者名簿と医療機関の患者情報はリアルタイムで共有されているのか――。残念ながら、その多くは「なんとかなった」という経験知に頼らざるを得ず、体系的な情報連携の仕組みは十分には機能しなかったと言わざるを得ません。

私が訪問診療を通じて日々接する患者さんの中にも、人工呼吸器や在宅透析機器を使用している方、精神科の薬を定期的に服薬している方、認知症で一人では避難できない方が多くいらっしゃいます。こうした方々を「要配慮者」と呼び、災害対策基本法においてもその支援計画の策定が市区町村に義務づけられています。しかし義務と現実の間にはいまだ大きなギャップがあるのが実情です。

本コラムでは、要配慮者支援の現状と課題を整理したうえで、ICT(情報通信技術)を活用した地域医療・福祉・行政の情報連携がどのように機能すべきか、そして医療法人鳳應会として私たちが考える平時からの備えについてお伝えしていきます。北海道という広大な地域で地域医療を担う立場から、この問題を「自分ごと」として考えていただくきっかけになれば幸いです。

「要配慮者」とは誰か――多様なニーズを正しく理解する

法律が定義する要配慮者の範囲

災害対策基本法(第8条第2項第15号)は、要配慮者を「高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者」と定義しています。さらに同法第49条の10では、市区町村長に対して「避難行動要支援者名簿」の作成を義務づけています。2021年の法改正によって「個別避難計画」の策定も努力義務から一部義務化される方向が示され、2025年までに対象者全員の計画策定を目指すとされています。

実際に支援が必要な対象者は非常に多様です。在宅医療を受ける患者(人工呼吸器・在宅酸素・在宅透析など)、認知症高齢者、精神障がいのある方、難病患者、視覚・聴覚・肢体不自由の方、乳幼児のいる家庭、日本語を母語としない外国籍住民など、ニーズの種類も緊急度も異なります。それぞれに応じた情報と支援計画が必要であり、一律の対応では機能しません。

北海道特有の地理的・社会的課題

北海道は面積が約8万3,000平方キロメートルと広大で、人口密度は全国最低水準です。札幌・小樽などの都市部でも、冬季の積雪・凍結によって移動が著しく制限されます。過疎地では医療機関までの距離が数十キロになることも珍しくなく、道路が寸断された場合には孤立集落が発生するリスクが非常に高い。さらに高齢化率が高い地域では、要配慮者の割合が全人口の3割を超えることもあります。こうした環境において、「人手で一軒一軒まわる」という従来の安否確認方式には物理的な限界があります。

精神科・メンタルヘルス領域における要配慮者

精神科の診療を行う私たちにとって特に意識するのが、メンタルヘルス上の要配慮者の存在です。統合失調症や双極性障害の方は、ストレス環境下で急性増悪のリスクが高まります。抗精神病薬や気分安定薬が手元にない状態が数日続いただけで、症状が再燃することがあります。また、抗てんかん薬・抗凝固薬・インスリンなど、中断が直接生命リスクにつながる薬を服用している方も多くいます。こうした方々の「薬の情報」「かかりつけ医の情報」「緊急連絡先」を行政と医療が共有する仕組みが、平時から整備されていることが非常に重要です。

現状の課題――なぜ情報連携はうまくいかないのか

縦割り構造と個人情報保護の壁

要配慮者支援の最大の障壁の一つが、行政・医療・福祉それぞれの情報が「サイロ(タコツボ)」に入ったまま共有されない構造的問題です。市区町村の避難行動要支援者名簿には、民生委員が把握している高齢者情報が含まれることが多い一方、医療機関が管理する在宅患者の情報や、障がい福祉サービス事業者が持つ利用者情報は、原則として外部に提供されません。個人情報保護法や医療機関における守秘義務がその根拠とされますが、結果として「誰がどんな支援を必要としているか」という全体像が誰にも把握できていない状況が生じています。

厚生労働省の調査(2023年版「要配慮者の避難支援に関する調査」)によれば、個別避難計画を全対象者分作成済みと回答した市区町村は全体の10%未満にとどまっています。計画策定が進まない理由として最も多く挙げられたのが「情報収集・共有の困難さ」でした。これは法整備が進む一方で、実務上の情報連携の仕組みが追いついていないことを端的に示しています。

平時のデータが「点」で分断されている問題

在宅医療の現場では、訪問診療医・訪問看護師・ケアマネジャー・薬剤師・ヘルパーなど多職種が一人の患者を支えています。しかし各事業者が使うシステムは異なり、カルテ・ケアプラン・薬歴・サービス提供記録はそれぞれ別々のソフトウェアに保存されています。緊急時にこれらの情報を即座に一元参照できる仕組みはほとんど整備されておらず、現場では「FAXで情報を送る」「電話で確認する」という非効率かつ災害時には機能しないアナログな手段に依存しています。

名簿の「鮮度」問題

もう一つの深刻な課題が、避難行動要支援者名簿の情報が古くなりやすいことです。高齢者の状態は数か月で大きく変化します。施設に入所した、亡くなった、新たに医療依存度が高くなった、といった変化が名簿に反映されないまま時間が経過するケースは珍しくありません。紙ベースまたは更新頻度の低いデータベースで管理されていると、実際の緊急時に名簿が「使えない」状態になっています。

ICTが変える要配慮者支援――具体的な活用事例

電子避難行動要支援者名簿とリアルタイム更新

ICT活用の第一歩は、紙の名簿をデジタル化し、関係者がリアルタイムで更新・閲覧できるプラットフォームを構築することです。国内ではすでに先進的な自治体がクラウドベースの避難行動要支援者管理システムを導入し、民生委員・訪問看護ステーション・ケアマネジャーがそれぞれのIDでログインして情報を更新できる仕組みを運用しています。北海道内でも一部の市町村がこうしたシステムの導入を検討・試行していますが、全道的な普及にはまだ時間がかかっています。

このようなシステムでは、在宅医療の担当医が「この患者は人工呼吸器を使用しており、停電時は2時間以内に電源確保が必要」という情報を入力し、行政の防災担当者と地域消防が平時から把握できるようになります。災害発生時に「誰に最初に駆けつけるべきか」の優先順位付けが、デジタルデータに基づいて行えるようになるわけです。

オンライン診療・遠隔モニタリングの活用

平時からオンライン診療を取り入れておくことは、災害時のBCP(事業継続計画)としても有効です。当法人グループが運営する北海道オンラインクリニックでは、精神科のオンライン診療を提供していますが、処方情報や診察記録がデジタルで管理されているため、たとえば患者さんが避難先に移動していても、継続的な診療と処方が可能です。また、バイタルサインの遠隔モニタリング機器を平時から使用している患者さんについては、センサーデータをクラウドに蓄積しておくことで、通信が部分的に回復した段階で安否と健康状態を確認できます。

ウェアラブルデバイスとAIによる異常検知

近年、スマートウォッチや小型センサーを用いた生体情報モニタリングが急速に普及しています。心拍数・SpO2・活動量・睡眠データをAIが解析し、異常パターンを検知した場合に自動アラートを発する仕組みは、在宅医療の現場でも実用化が進んでいます。こうした機器を要配慮者が平時から装着し、データを医療機関・行政・家族が共有する体制を整えておくことで、災害時の安否確認に活用できる可能性があります。ただし、停電時のバッテリー持続時間や通信インフラの冗長化など、インフラ面での課題も同時に検討する必要があります。

地域医療・福祉・行政の「情報連携プラットフォーム」をどう設計するか

マイナンバー・医療DXとの接続可能性

2024年に本格始動した「マイナ保険証」への移行と医療DX推進政策は、要配慮者支援の情報連携にとっても重要な転機となる可能性があります。政府が整備を進める「電子処方箋」「電子カルテ情報共有サービス」などの基盤が整えば、患者の薬情報・アレルギー情報・基礎疾患情報を医療機関の垣根を越えて参照できるようになります。これは災害時においても大きな力を発揮します。避難所で意識不明の高齢者に適切な初期対応をするために「この方が何の薬を服用していたか」をすぐに確認できるようになるのです。

ただし、こうした広域データ連携には、個人情報保護の観点からの制度設計が不可欠です。患者本人の同意取得、アクセス権限の厳格な管理、データ漏洩時の責任体制の明確化が求められます。ICT活用を進めるほど、法務・倫理面でのガバナンスが重要になることも忘れてはなりません。

地域包括ケアシステムとのシナジー

厚生労働省が推進する「地域包括ケアシステム」は、医療・介護・予防・住まい・生活支援を地域で一体的に提供する仕組みです。この枠組みは、平時の要配慮者支援情報連携とも深く連動しています。地域包括支援センターは高齢者の情報を集約する機能を担っており、ここを核として医療機関・福祉事業者・行政・地域住民の情報ネットワークを構築することが現実的です。

理想的なモデルは、地域包括支援センターのシステムに要配慮者データベースを統合し、担当ケアマネジャーが定期的に情報を更新し、医療機関とリアルタイムで共有する仕組みです。行政はその情報を防災計画に反映させ、消防や自主防災組織と連携して個別避難計画を策定します。このサイクルを平時から継続して回すことが、「使える」情報連携の核心です。

多職種連携ツールの標準化

現場の実務者が日々使うコミュニケーションツールの標準化も重要な課題です。現状では、医療機関はFAXや電子カルテ、介護事業者はLINEや専用アプリ、行政は電子メールや公文書系システムと、バラバラの手段が混在しています。災害時にはこれらが混在したまま情報が錯綜し、最も重要な患者の情報が埋もれてしまうリスクがあります。セキュリティ要件を満たしながら多職種が一つのプラットフォームで情報共有できる仕組み(医療・介護連携ICTツール)の導入を、自治体単位で推進することが望まれます。

BCP(事業継続計画)と要配慮者支援――医療機関ができること

医療機関のBCP策定が法的義務に

2024年度から、医療機関(病院・診療所)に対するBCP策定が診療報酬上の要件として明記される方向が示されています。BCPとは、災害や感染症流行などの緊急事態においても医療提供を継続するための計画です。医療機関自身が被災した場合でも、患者への情報提供・処方の継続・訪問診療の代替手段確保などを事前に計画しておく必要があります。

在宅医療を提供する診療所にとって、BCPの中核は「患者情報の安全な管理と継続的なアクセス確保」です。紙カルテが水没・焼失した場合でも、クラウドにバックアップされた電子カルテがあれば診療継続が可能です。また、停電時の発電機確保、衛星回線などの通信手段確保も含めた包括的な計画が求められます。当法人では、訪問診療患者の電子化された診療記録と、オンライン診療インフラの整備を通じて、こうした有事対応能力の向上に継続的に取り組んでいます。

訪問診療患者の「災害時個別情報シート」の整備

私たちが実践できる具体的な取り組みの一つが、訪問診療患者ごとの「災害時個別情報シート」の作成と共有です。このシートには、患者名・住所・緊急連絡先はもちろん、使用中の医療機器・服薬情報・アレルギー・基礎疾患・避難支援者の情報を一枚にまとめ、患者本人・家族・行政・地域消防が同じ情報を持ち、かつデジタルでも参照できる状態にします。情報のフォーマットを統一することで、複数の関係機関がスムーズに連携できるようになります。

地域の自主防災組織・民生委員との顔の見える関係づくり

ICTはあくまでも手段であり、最終的に要配慮者のドアを叩くのは人間です。日頃から地域の自主防災組織や民生委員と連携し、「この地域にはどんな患者がいるか」をある程度共有しておくことが、ICTシステムの実効性を高めます。個人情報の取り扱いには十分な配慮が必要ですが、患者本人の同意を得たうえで、「要支援者として地域に情報を共有してもよいか」を確認するプロセスを訪問診療の中で平時から行っておくことが重要です。

先進事例から学ぶ――国内外の要配慮者支援ICT活用

国内先進事例:熊本地震後の取り組みと電子情報連携

2016年の熊本地震では、在宅医療患者の安否確認が大きな課題となりました。この経験を受けて、熊本市では在宅医療・介護連携情報共有システムの整備が進められ、医療・福祉・行政が一つのプラットフォームで患者情報を共有する体制が構築されました。また、宮城県では東日本大震災後に「石巻モデル」として知られる多職種連携の仕組みが生まれ、全国に波及しています。これらの事例に共通するのは、「災害後に慌てて作るのではなく、平時の連携体制が災害時に機能する」という教訓です。

海外の事例:ICTを活用した要配慮者登録制度

米国カリフォルニア州では、電力会社が「医療ベースライン料金プログラム」として、在宅医療機器を使用する利用者を登録し、計画停電の際に事前通知する仕組みを運用しています。停電になる前に行政・医療機関・当事者に情報が届くことで、自家発電機の準備や避難の事前手配が可能になります。また英国のNHS(国民保健サービス)では、「医療的ケア児・者の在宅記録」をデジタルで管理し、救急隊員がスマートフォンからリアルタイムで参照できる仕組みが一部地域で導入されています。こうした海外の先行事例は、日本での制度設計にとっても重要な参考となります。

AIを活用した避難支援計画の最適化

近年、AIを活用して避難行動要支援者の個別避難計画を効率的に策定する試みも始まっています。地図情報・交通情報・支援者の分布・要配慮者のニーズをAIが統合的に分析し、「誰が誰を、どのルートで、どこに避難させるか」を自動的に提案するシステムの研究・開発が進んでいます。人口が少なく支援人材が限られる過疎地域や、冬季に道路状況が変化する北海道のような環境では、このようなAI支援が特に有効である可能性があります。ただし、AIによる提案はあくまでも参考情報であり、最終的な判断は地域の実情を知る人間が行うことが重要です。

厚生労働省は「令和6年版 厚生労働白書」において、地域包括ケアの推進と防災・減災の連携を重要政策課題として位置づけています。医療・福祉・行政が一体となった情報連携の構築が、今後の地域医療政策の柱の一つとなっています。

医療法人鳳應会からの提案――平時から始める5つのアクション

私たちが今すぐできることから始める

要配慮者支援の情報連携と聞くと、大規模なシステム投資や法制度の整備が必要に思えるかもしれません。しかし、まずは今日からでも始められる取り組みがあります。当法人では、地域医療・在宅医療・オンライン診療の実践者として、以下の5つのアクションを皆さんに提案したいと思います。

  1. 訪問診療・通院患者の「災害時個別情報シート」作成と患者同意の取得:患者本人・家族・ケアマネジャー・行政の4者が同じ情報を持つ体制を整える。
  2. 平時からのオンライン診療体制の構築:電子カルテ・オンライン診療システムを整備し、診察記録・処方情報をクラウドで管理。停電・移動困難時でも継続診療できる体制を持つ。
  3. 地域の多職種連携会議への医師・医療機関の積極参加:ケアマネジャー・訪問看護師・行政・消防・民生委員との顔の見える関係を平時から構築する。
  4. 自治体の防災担当部署との情報共有・協定締結:医療機関として、在宅患者の存在を行政に適切に伝えるためのデータ提供の枠組みと同意プロセスを整備する。
  5. 医療DXへの積極的な参加:電子処方箋・医療情報連携基盤への登録を進め、緊急時に患者情報が参照できるインフラを平時から活用する。

医療法人鳳應会は、札幌・小樽を拠点に訪問診療・精神科・オンライン診療・介護・産業医活動など多岐にわたる事業を展開しています。「病を治す」から「人生を支え抜く」という理念は、平時だけでなく有事においても変わりません。災害という非日常のなかでも、一人ひとりの患者さんの尊厳と生命を守り続けるために、今できる準備を着実に積み重ねていくことが私たちの使命だと考えています。

患者さんご本人・ご家族の方々にも、ぜひ平時から「かかりつけ医と災害時のことを話し合う」機会を持っていただきたいと思います。服薬中の薬の名前と量を記録しておく、医療機器のバッテリー持続時間を確認しておく、近隣の避難場所と移動手段を確認しておく――こうした小さな備えの積み重ねが、いざというときに命をつなぐ力になります。ご不明な点や不安なことがあれば、ぜひ当法人の医師・スタッフにお気軽にご相談ください。

本コラムに記載された制度・法律の情報は執筆時点(2025年)のものです。法改正や制度変更により内容が変わる場合があります。具体的な手続きについては、お住まいの自治体や医療機関にご確認ください。

よくある質問

Q. 在宅医療を受けている家族がいます。災害時に備えて何を準備すればよいですか?

A. まずはかかりつけ医・訪問看護師・ケアマネジャーに「災害時の対応について相談したい」と伝えることをお勧めします。具体的な準備としては、①服薬中の薬の名前・用量・処方医院を記録した「お薬手帳」のコピーを複数の場所に保管する、②使用している医療機器(在宅酸素・人工呼吸器等)のバッテリー持続時間と緊急連絡先を確認する、③近隣の避難場所と福祉避難所の場所を把握しておく、④市区町村の避難行動要支援者名簿への登録を検討する、といったことが挙げられます。当法人の訪問診療・外来を受診されている方は、お気軽にスタッフにご相談ください。

Q. 避難行動要支援者名簿に登録するとどのような支援が受けられますか?

A. 市区町村が作成する避難行動要支援者名簿に登録されると、災害発生時に消防・警察・民生委員・自主防災組織などが優先的に安否確認・避難支援を行う対象となります。また、個別避難計画が策定されている場合は、「誰が」「どのルートで」「どこへ」避難を支援するかが具体的に定まります。登録は任意ですが、在宅医療を受けている方・要介護の方・障がいのある方などは特に登録をご検討いただくことをお勧めします。登録方法はお住まいの市区町村の窓口・ウェブサイトでご確認ください。

Q. オンライン診療は災害時にも利用できますか?

A. 通信環境が確保されていれば、オンライン診療は避難先からでも利用できます。当法人グループの北海道オンラインクリニックでは、精神科のオンライン診療を提供しており、平時から電子カルテで情報を管理しているため、患者さんが移動していても診察・処方の継続が可能です。ただし、大規模災害時には通信インフラ自体が損傷することがあります。衛星通信などの代替通信手段の整備は行政・通信事業者側の課題でもあります。なお、厚生労働省は緊急時のオンライン診療特例(平時ルールの緩和)についても通知を出しており、有事における活用が期待されています。

Q. 医療機関が患者の個人情報を行政と共有することは許されるのですか?

A. 原則として、医療機関が患者の個人情報を第三者(行政を含む)に提供するには、患者本人の同意が必要です。ただし、災害対策基本法第49条の11では、市区町村が避難行動要支援者名簿の作成・共有のために必要な情報を関係機関に提供するよう求める規定があり、医療機関もこれに協力できる場合があります。実務的には、在宅医療の患者さんに「行政や地域の支援者と情報を共有する可能性がある」ことを事前に説明し、書面で同意を得ておくことが最も安全です。具体的な手続きについては、当法人にご相談ください。

Q. 北海道では冬の災害が特に心配です。精神科の薬が入手できなくなった場合はどうすればよいですか?

A. 精神科の薬(抗精神病薬・抗うつ薬・気分安定薬・抗てんかん薬など)は、突然の中断が症状悪化や身体的リスクにつながることがあります。平時から「お薬手帳」を携帯し、服薬している薬の名前・用量を記録しておくことが最初の対策です。また、1〜2週間分程度の薬の予備を確保しておくことを、かかりつけ医と相談してみてください。万が一薬が手元にない場合は、避難所に設置された医療救護所や、近隣で営業している薬局・医療機関に「お薬手帳」を持参してご相談ください。当法人でも緊急時の対応については柔軟に対応しますので、北海道オンラインクリニックにもご相談いただけます。

まとめ

  • 災害時の要配慮者(高齢者・在宅医療患者・障がい者・精神疾患のある方など)を守るには、平時からの情報連携と個別避難計画の整備が不可欠です。
  • 現状は行政・医療・福祉の縦割り構造と個人情報保護の壁によって情報が分断されており、ICTを活用したプラットフォームの整備が急務です。
  • 電子避難行動要支援者名簿、オンライン診療、遠隔モニタリング、医療DX基盤(電子処方箋・医療情報連携)は、災害時支援の実効性を高める重要なツールです。
  • 北海道特有の広大な地理・過酷な冬季環境・高齢化率の高さを踏まえると、AIや衛星通信など先進テクノロジーの活用と、人と人との顔の見える関係の両方が必要です。
  • 医療機関は今すぐ「災害時個別情報シートの作成」「BCP策定」「地域多職種連携への参加」「自治体防災部署との連携」を始めることができます。
  • 患者さん・ご家族も、かかりつけ医と平時から災害時の対応を相談し、薬の情報・医療機器の情報・避難先を整理しておくことが大切です。

医療法人鳳應会では、訪問診療・在宅医療・精神科・オンライン診療を通じて、地域の皆さんの「病を治す」だけでなく「人生を支え抜く」ことを使命としています。災害への備えについても、患者さん・ご家族・地域の事業者・行政の皆さんと一緒に考え、平時からの連携を深めていきたいと考えています。在宅医療のご相談、オンライン診療のご利用、防災に関する地域連携のご相談など、お気軽にお問い合わせください。

参考:災害対策基本法(令和3年改正)/厚生労働省「在宅医療の推進と防災・減災対策」/内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針(令和3年改定)」/厚生労働省「令和6年版厚生労働白書」/国土交通省「北海道胆振東部地震に係る被害・対応状況(2018年)」