「記録が終わらない」——介護現場に蔓延する疲弊の正体

介護の仕事を選んだ理由を、スタッフに聞いてみると、「利用者さんの笑顔が見たかった」「誰かの役に立てる仕事がしたかった」という言葉が返ってきます。ところが実際の現場では、日中は利用者への直接ケアに追われ、業務の合間や勤務終了後に記録をまとめるという構図が常態化しています。特別養護老人ホームや小規模多機能型居宅介護、訪問介護事業所など業態を問わず、この「記録業務の重さ」は共通の悩みです。

厚生労働省が2022年度に実施した「介護労働実態調査」によると、介護職員の約6割が「仕事量が多い」ことを離職理由や就労継続の障害として挙げており、そのなかでも記録・報告業務の煩雑さが大きな要因として挙げられています。また、国際的な視点でみると、OECD加盟国のなかでも日本の介護職は直接ケア以外の間接業務(書類作成・記録・連絡調整)に費やす時間が長く、構造的な課題があると指摘されています。

医療法人鳳應会が拠点を置く北海道では、過疎化・高齢化が同時進行し、人材不足がとりわけ深刻です。札幌市内でさえ採用難が続いているなか、小樽や周辺市町村の事業所では、スタッフ一人が担う業務範囲がさらに広く、記録に充てられる時間を捻出することが難しい状況があります。こうした現実に向き合ったとき、「テクノロジーで記録業務を半分にする」という発想は、もはや理想論ではなく緊急課題への現実解といえるでしょう。

本記事では、介護記録のICT化とは何か、どのような仕組みで業務を削減できるのか、そして実際に導入するためのステップを、北海道・地方の施設・事業所が直面する固有の事情も踏まえながら解説していきます。

介護記録ICT化の全体像——「紙からデジタルへ」が意味すること

ICT化の対象となる介護業務の範囲

「介護記録のICT化」というと、紙の日誌をタブレットに入力するだけのイメージを持たれる方も多いかもしれません。しかし実際には、介護現場の記録・情報共有に関わる業務全体をデジタルに置き換えるという、より広い概念です。具体的には、日々の介護日誌・申し送り、バイタルサイン(体温・血圧・脈拍・SpO2など)の記録、食事・水分摂取量の管理、服薬確認、排泄ケアの記録、ヒヤリハット報告、ケアプランや個別機能訓練計画との連動、医療機関や薬局との情報連携などが対象になります。

これらをデジタル介護記録システム(介護ソフト・介護支援ソフトとも呼ばれます)やIoTセンサー、タブレット端末などを組み合わせて管理することで、紙の転記や転送の手間がなくなり、情報がリアルタイムに共有されるようになります。厚生労働省も「介護現場の生産性向上に資するガイドライン」(2018年初版、以降改訂)のなかで、ICT・テクノロジーの活用を正式に推進しており、国を挙げての取り組みとして位置づけられています。

主なシステムの種類と機能比較

現在、介護ICTシステムは国内に多数の製品が流通しています。代表的なカテゴリとしては、介護記録・情報共有システム(スマホ・タブレットで記録・閲覧ができるもの)、介護ロボット・IoTセンサー連動システム(離床センサーや見守りカメラのデータを自動取り込みするもの)、ケアプラン作成支援システム(AI補助機能つき)、請求・シフト管理と一体化した統合型システムの4種類に大別されます。

施設の規模や機能に応じて最適な製品は異なりますが、共通して重視すべき機能は「リアルタイム共有」「音声入力対応」「他システムとの連携(API連携)」「クラウド対応によるどこからでもアクセス可能な環境」の4点と考えられます。訪問介護事業所であれば、スマートフォンから外出先で記録を完結できるモバイル対応が特に重要です。

デジタル化によって「なくなる作業」と「変わる作業」

ICT化が進むと、これまで必要だった業務の一部は完全になくなります。たとえば、紙の日誌をパソコンに転記する作業、申し送りノートを手書きでまとめる作業、バイタルを記録用紙に書いてから再集計する作業などです。一方で、「なくなる」のではなく「変わる」作業もあります。ケアの質や利用者の状態変化に気づくための観察・判断はAIが代替できるものではなく、むしろICT化によって間接業務が減った分、こうした本質的なケアに集中できる時間が生まれます。記録は「書く作業」から「確認・活用する作業」へと性質が変わっていくと考えると理解しやすいでしょう。

なぜICT化で記録業務が「半分」になるのか——時間削減の仕組みを解説

二重入力・転記作業の排除による効果

紙ベースの介護記録でもっとも時間がかかる作業の一つが「二重入力」です。現場でバイタルを紙に記録し、後でパソコンに入力し直す。ケアの内容を手書きのメモに残し、夜勤の申し送りノートにも書き写す。このような同じ情報を複数の場所に書き直す行為が、介護現場では日常的に行われています。デジタルシステムではデータを一度入力すれば、関係するすべての帳票や記録に自動反映されるため、この転記コストがゼロになります。

公益財団法人介護労働安定センターの調査や複数の事業所での導入事例によると、ICT導入後に記録業務にかかる時間が30〜50%削減されたという報告が複数見られます。特に、音声入力機能を活用したケースでは、記録時間がさらに短縮される傾向があります。利用者の部屋を出た直後に「血圧収縮期118、拡張期74、脈拍72、異常なし」と音声で入力するだけで記録が完結するため、「後でまとめて書く」という残業の温床がなくなります。

リアルタイム情報共有による「伝言ゲーム」の解消

紙の申し送りノートや口頭での申し送りには、情報の伝達ミスや漏れが生じやすいという構造的な問題があります。夜勤担当者が前シフトのスタッフから口頭で聞いた情報を記憶に頼って対応するといった場面は、医療安全・介護事故の観点からも見直すべき慣行です。ICT化されたシステムでは、現場スタッフ全員が同じ情報をリアルタイムで参照でき、「誰がどの利用者に何を行ったか」が可視化されます。これにより申し送り時間の短縮(平均10〜20分の削減という事例報告があります)と、情報共有の質向上が同時に実現します。

自動集計・帳票出力による事務作業の圧縮

月末の請求業務や行政への報告書類、ケアプランの更新作業なども、デジタル介護記録システムと国民健康保険団体連合会(国保連)への請求システムを連動させることで、大幅に自動化できます。日々の記録が蓄積されることで、月次の「ケア実施報告書」や「個別機能訓練の記録」なども自動で集計・出力される製品が増えており、管理職が月末に抱える事務作業の負担も軽減されます。こうした間接業務の圧縮が積み重なることで、「業務全体の半減」という数字が現実のものとなっていきます。

失敗しないICT導入のための5ステップ

ステップ1:現状の業務フローを「見える化」する

ICT化の第一歩は、システムを選ぶことでも購入することでもありません。現在の記録業務に何分かかっているか、どの作業が重複しているか、どこで情報の断絶が起きているかを正確に把握することから始まります。具体的には、1週間程度、スタッフ全員に「業務日誌(タスクログ)」をつけてもらい、各作業にかかった時間を記録します。この「現状の見える化」によって、ICT化で解決すべき優先課題が明確になります。管理職の感覚だけで「ここが問題だ」と決めつけると、現場ニーズとズレたシステム選定につながる可能性があるため、スタッフ全員が参加するプロセスとして位置づけることが重要です。

ステップ2:目的と導入スコープを決める

「とにかくICT化しよう」という漠然とした動機では、導入後に「使われないシステム」になる可能性があります。「夜勤スタッフの申し送り時間を15分以内にする」「月末請求業務を2日から半日に短縮する」「訪問介護スタッフが事業所に戻らずに記録を完結できるようにする」といった、具体的で測定可能な目標を設定することが成功の鍵です。また、最初から全機能を一度に導入しようとするのではなく、「まずバイタル記録だけデジタル化する」「次に申し送りをアプリに移行する」といった段階的なスコープ設定が、スタッフの混乱を防ぎ、定着率を高めます。

ステップ3:現場スタッフを巻き込んだシステム選定

システムの選定段階から、実際に使う現場スタッフを参加させることが定着の成否を分けます。管理職や法人上層部だけで決定したシステムを「使いなさい」と押しつけると、「操作が難しい」「今のやり方のほうが楽だった」という抵抗感が生まれやすくなります。複数のシステムの無料トライアルを行い、「このUIなら記録しやすい」「音声入力の精度が高い」といった現場の声を集めることで、スタッフが自分たちで選んだという当事者意識が生まれ、導入後の定着率が大きく向上します。

ステップ4:研修・運用ルールの整備と「ICTリーダー」の育成

導入直後は、一時的に業務が増えると感じるスタッフも出てきます。これは新しいツールへの慣れが必要な移行期であり、適切なサポート体制を整えることで乗り越えられます。具体的には、システム操作の集合研修(2〜3時間程度)に加え、現場で困ったときに気軽に質問できる「ICTリーダー(デジタル推進担当者)」を各部署に1名以上配置することが効果的です。ICTリーダーはITの専門家である必要はなく、「デジタルに比較的慣れているスタッフ」で十分です。彼・彼女たちがベンダーのサポート窓口との橋渡し役を担うことで、現場の問題解決スピードが上がります。

ステップ5:導入後のPDCAと定期的な効果測定

ICT化は「導入したら終わり」ではありません。導入3ヶ月後、6ヶ月後に記録業務時間を再測定し、目標との差異を確認するPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回すことが重要です。「この機能は使われていない」「この操作が煩雑でスタッフが紙に戻っている」といった課題を早期に発見し、ベンダーへの改善要望や運用ルールの見直しにつなげます。継続的な改善こそが、ICT化の効果を最大化する根幹です。

北海道・地方施設が直面する固有課題と対応策

通信環境の整備——Wi-Fi・通信費という現実問題

クラウド型の介護ICTシステムを活用するためには、安定したインターネット接続環境が前提となります。都市部の施設であればさほど問題にならないこの条件も、北海道の過疎地域や山間部では大きな障壁になり得ます。通信インフラが整備されていない地域では、そもそも安定したWi-Fi環境の構築に多くのコストと時間がかかります。この課題に対しては、総務省の「デジタル田園都市国家構想」関連補助金や、各都道府県・市町村が実施する通信インフラ整備支援の活用を検討することが有効です。北海道においても、デジタル化支援に関する補助制度が複数整備されています。また、通信状況が不安定な環境を想定した「オフライン対応(電波がなくても入力できる)」機能を持つシステムを選定することも、地方の施設にとっては重要な選定基準となります。

人材不足のなかでの研修——時間と余裕をどう生み出すか

「ICT化は大切だとわかっているが、研修を行う時間もスタッフもいない」という声は、北海道の地方事業所から特によく聞かれます。慢性的な人手不足のなかでは、新しいシステムの習得に時間を割くことへの抵抗感は当然です。この問題を乗り越えるためには、ベンダーによる訪問型・オンライン型のサポート体制の充実度を、システム選定時の重要基準として評価することが必要です。契約後の初期設定から伴走支援まで行う「導入支援サービス」を提供するベンダーを選ぶことで、現場管理者への負担を最小化できます。また、スタッフが短時間で学べる動画マニュアルやeラーニングコンテンツを提供しているシステムは、自分のペースで学べるという点で地方施設のニーズに合っていると考えられます。

高齢スタッフのデジタルリテラシー支援

介護現場では、60代・70代の非常勤スタッフが活躍していることも珍しくありません。「タブレットを初めて触る」「スマホの文字入力が苦手」というスタッフへの配慮なしに、ICT化を一律に進めると現場の混乱を招く可能性があります。対策としては、大きなフォントと直感的なUIを持つシステムを選ぶこと、音声入力機能を積極的に活用することで文字入力の負担を下げること、そして「わからないことは恥ずかしくない」という心理的安全性の文化を組織的に醸成することが挙げられます。ICT化は若いスタッフのためだけのものではなく、すべてのスタッフが「楽になる」変化であることを、管理者が継続的に発信し続けることが重要です。

ICTで変わる多職種連携とケアの質

医療と介護の情報連携——地域包括ケアの実現へ

介護記録のICT化が進むことで、最も大きく変わる可能性があるのが「医療と介護の情報連携」です。現状、訪問診療医が施設や居宅を訪問した際に参照する介護記録は、紙のファイルを手渡されるか、口頭で申し送りを受けるかという形が多く、情報の網羅性・即時性に課題があります。ICT化された介護記録システムと医療機関の電子カルテが連携することで、医師は訪問前にスマートフォンで利用者の最新バイタル・食事・服薬状況を確認でき、より質の高い診療が可能になります。

医療法人鳳應会が取り組むオンライン診療や訪問診療においても、こうした医療・介護の情報共有基盤の整備は、ケアの継続性と安全性を高めるうえで不可欠です。国が推進する「電子カルテ情報共有サービス」(2024年度より段階的整備開始)も、将来的には介護事業所との連携を視野に入れた設計になっており、今から情報連携に向けた基盤を整えておくことが重要と考えられます。

データ活用によるケアの質向上

デジタル化された介護記録の蓄積は、単なる業務効率化にとどまらず、ケアそのものの質を高める資産となります。たとえば、利用者の血圧データを数週間分グラフ化することで、特定の曜日や時間帯に変動が大きいことに気づき、早期に医師へ相談するといった対応が可能になります。転倒・ヒヤリハットの記録を集計・分析することで、「廊下のこの場所で夜間に転倒が多い」という環境改善の根拠データが得られます。データに基づいた介護計画の見直しは、感覚や経験則だけに依存しない、より科学的なケアの実現につながると考えられています。

家族との情報共有——安心感という付加価値

ICT化が進んだ施設のなかには、家族向けのアプリやウェブポータルを通じて、利用者の日々の様子・食事・活動内容を写真や記録で共有する取り組みも始まっています。遠方に住む家族が施設の様子をリアルタイムで確認できることは、家族の安心感を高めるとともに、施設への信頼度向上にもつながります。特に北海道では、利用者の子どもが道内外の遠方に住んでいるケースが多く、こうした「遠距離家族への情報開示」機能は大きな価値を持つと考えられます。

導入コスト・補助金・行政支援をフル活用する

ICT導入補助金の全体像

介護ICT化の導入費用は、タブレット端末の購入費、システムの初期費用、月額利用料(クラウド型の場合)、Wi-Fi整備費などが主なコストとして発生します。規模や選択するシステムによって差はありますが、小規模事業所でも初期に数十万〜百数十万円程度の投資が必要になる場合があります。

しかし、国・都道府県・市町村による各種補助制度を活用することで、自己負担を大幅に圧縮できる可能性があります。最も規模の大きい支援として、厚生労働省「介護ロボット等導入支援事業」があり、ICT機器の導入に対して一定割合の補助が受けられます(補助率・上限額は年度ごとに改定されるため、最新情報を各都道府県の窓口へ確認することをお勧めします)。また、「業務改善助成金」(厚生労働省)は介護事業所を含む中小企業が生産性向上のためのシステム導入を行う際に利用できる制度であり、介護ICTの導入にも適用できるケースがあります。

北海道独自の支援制度と行政連携

北海道は独自に「介護人材確保・業務効率化推進事業」を展開しており、ICT化に取り組む事業所への支援を行っています。また、北海道介護支援専門員協会や北海道社会福祉協議会が実施するセミナー・研修においても、ICT導入に関する情報提供が行われています。自治体の介護保険担当課や地域包括支援センターと積極的に情報交換を行い、活用できる制度を漏れなく把握することが重要です。行政書士やコンサルタントへの相談も有効であり、医療法人鳳應会のグループ組織である「行政書士きくち事務所」では、医療・介護法務に関する支援も行っています。

コスト回収の見通しとROI(投資対効果)の考え方

ICT導入の費用対効果を試算する際には、「記録業務の削減時間×スタッフの時給×削減されたスタッフ数×12ヶ月」という単純な計算から始めることができます。仮にスタッフ10名が毎日平均30分の記録時間を削減できた場合、年間で1,800時間分の労働時間が生まれます。この時間をケアの質向上・新規受入れへの対応・スタッフのWLB改善に充てられることを考えると、ICT化への投資は短期間で回収できる可能性が十分あると考えられます。また、スタッフの離職率が低下した場合の採用・研修コストの削減も、ICT化がもたらす重要な間接効果として試算に含めることをお勧めします。

厚生労働省「介護現場における生産性向上の取組支援事業」では、ICT導入に係る費用の一部補助に加え、専門家(ICT推進アドバイザー)の派遣支援も行っています。まずは都道府県の担当窓口へ問い合わせることが第一歩となります。

医療法人鳳應会の立場から——地域の介護現場を支えるために

「医療と介護のシームレスな連携」に向けた私たちの姿勢

医療法人鳳應会は、「病を治す」から「人生を支え抜く」というビジョンのもと、訪問診療・在宅医療・介護・精神科・オンライン診療を組み合わせた複合的な支援体制を構築しています。私が日々の診療を通じて痛感するのは、医療と介護の情報が断絶しているために、患者・利用者の状態変化への対応が遅れたり、同じ説明を何度も繰り返すという非効率が生じていることです。これは利用者・家族にとっても、医療・介護の両側にいるスタッフにとっても、ストレスの多い状況です。

介護記録のICT化は、こうした断絶をつなぐ重要なインフラです。介護事業所でデジタル化された記録が、訪問診療医であるわれわれとスムーズに共有されることで、薬の変更・点滴の追加・緊急時の対応判断が迅速かつ的確になります。これは単なる業務効率の話ではなく、利用者の命と生活の質に直結することです。当法人は、地域の介護事業所が安心してICT化に踏み出せるよう、情報提供・連携支援の面から積極的に関わっていきたいと考えています。

Medi Faceと北海道オンラインクリニックによる連携支援

鳳應会グループのMedi Face(精神科DX部門)では、精神科領域における医療DXの知見を活かし、地域の介護事業所・支援機関とのデジタル連携を推進しています。また、北海道オンラインクリニックでは、精神科領域のオンライン診療を通じて、通院が困難な在宅・施設の利用者への医療アクセスを支えています。介護スタッフが「この利用者さんのメンタルが気になるが、精神科への受診が難しい」と感じた際に、オンライン診療という選択肢があることを知っておいていただけると、連携の幅が広がります。

まず「相談する」から始めましょう

介護記録のICT化に関心はあるものの、「どこから手をつければいいかわからない」「予算をどう確保するか見当がつかない」「スタッフへの説明に自信がない」という管理者・経営者の方は、ぜひ当法人へお気軽にご相談ください。訪問診療・在宅医療・介護DXに関する情報提供や、地域のICT推進支援窓口へのご案内なども行っています。北海道の介護現場を一緒に変えていく仲間として、私たちは常に現場の声に向き合い続けます。

ICTシステムの選定・契約にあたっては、個人情報保護法および介護事業所の情報セキュリティに関する厚生労働省のガイドラインに従った適切な管理体制を整備することが求められます。ベンダーとの契約時には、データの保管場所・セキュリティ基準・情報漏洩時の対応について必ず確認するようにしましょう。

よくある質問

Q. 介護記録のICT化にはどのくらいの費用がかかりますか?

A. 導入規模や選択するシステムによって大きく異なりますが、小規模事業所(スタッフ10〜20名程度)の場合、タブレット端末・Wi-Fi整備・システム初期費用を合わせて50万〜150万円程度を見込むケースが多いと考えられます。ただし、厚生労働省や都道府県の補助制度を活用することで自己負担を軽減できる可能性があります。月額のクラウド利用料も発生しますが、1スタッフあたり月数千円程度のシステムも多く、削減できる業務コストとのバランスで投資対効果を試算することをお勧めします。

Q. ITが苦手なスタッフが多い施設でも導入できますか?

A. 導入可能です。現在の介護ICTシステムは、タッチ操作・音声入力・大文字表示など、ITに不慣れな方でも使いやすいUI設計が進んでいます。重要なのはシステム選定時に「使いやすさ」を必須評価軸とすること、そして現場スタッフを研修段階から巻き込み、「ICTリーダー」を各部署に育てることです。ベンダーによる訪問サポートやオンライン研修を積極的に活用することで、導入後の定着率を高められると考えられます。

Q. 紙の記録と並行して使う移行期間はどのくらい必要ですか?

A. 一般的には1〜3ヶ月の並行運用期間を設けるケースが多いです。最初から完全にデジタルへ切り替えるのではなく、特定の記録項目(バイタル記録など)から段階的に移行し、スタッフの習熟度が上がったタイミングで対象を広げていく「段階的移行」が、混乱を防ぐうえで効果的とされています。急激な変更はスタッフの抵抗感を生みやすいため、焦らず着実に進めることが成功の鍵です。

Q. 訪問介護事業所でも同じようにICT化できますか?

A. 訪問介護事業所においても、ICT化は大きな効果をもたらす可能性があります。特にスマートフォン対応の介護記録アプリを活用することで、スタッフが訪問先でサービス提供記録を即時入力でき、事業所へ戻る手間や残業が大幅に削減されます。GPS連動による訪問確認機能や、請求システムとの連動など、訪問介護特有のニーズに対応した製品も多く登場しています。

Q. セキュリティが心配ですが、利用者情報の漏洩リスクはどう管理すればよいですか?

A. 利用者情報はきわめて重要な個人情報であり、ICTシステムの選定・運用においてセキュリティ対策は最優先事項です。具体的には、データ暗号化・二段階認証・アクセス権限の設定(必要なスタッフだけが閲覧できる仕組み)・定期的なバックアップを実施しているシステムを選ぶことが基本です。厚生労働省が公表している「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」および「個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(介護関係事業者向け)」を参照しながら、社内の運用ルールを整備することをお勧めします。

まとめ

介護記録のICT化は、慢性的な人材不足と業務過多に苦しむ介護現場にとって、実現可能な現実解です。本記事の要点を以下に整理します。

  • 介護現場の記録業務は全業務の大きな割合を占めており、ICT化によって30〜50%の削減が可能とされている。二重入力・転記作業・申し送り時間の短縮が主な削減要因となる。
  • ICT導入の成功には「現状の業務フロー見える化→目標設定→現場参加型のシステム選定→研修・ICTリーダー育成→PDCA」という5ステップが有効である。
  • 北海道・地方施設特有の課題(通信環境・人材不足・高齢スタッフへの配慮)には、オフライン対応システムの選定・段階的研修・音声入力活用などで対応できる可能性がある。
  • 厚生労働省の「介護ロボット等導入支援事業」や北海道独自の支援制度を活用することで、導入コストを大幅に圧縮できる可能性がある。最新の補助制度情報を行政窓口へ確認することが重要である。
  • 介護記録のICT化は、医療・介護の情報連携を深め、訪問診療や多職種連携の質を高める基盤となる。データ蓄積がケアの質向上・事故予防にも活用できる。
  • 医療法人鳳應会は、地域の介護事業所がICT化に踏み出せるよう、訪問診療・オンライン診療・医療DXの知見を活かした情報提供・連携支援を行っている。

介護現場の未来を変えるための第一歩を、一人で抱え込まずに踏み出しましょう。ICT化に関するご相談、訪問診療・在宅医療との連携についてのお問い合わせは、医療法人鳳應会へお気軽にご連絡ください。北海道の地域医療・介護の現場を一緒に守り、育てていくために、私たちは皆さまのそばにいます。

参考資料:厚生労働省「介護現場における生産性向上の取組支援事業」、厚生労働省「介護現場の生産性向上に資するガイドライン(第3版)」、公益財団法人介護労働安定センター「令和4年度介護労働実態調査」、厚生労働省「個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(介護関係事業者向け)」、OECD「Health at a Glance 2023」