「また同じことを説明しなければ…」——情報の分断が生む在宅ケアの断絶
退院の日、ご本人とご家族は安堵とともに、大きな不安を抱えて自宅の玄関をくぐります。入院中は医師・看護師・リハビリスタッフが一つの病棟でチームとして動いていたのに、在宅に移った途端、主治医・訪問看護師・ヘルパー・ケアマネージャー・薬剤師それぞれが別々の組織に属し、情報がばらばらになってしまう——これが日本の地域ケアが長年抱えてきた構造的な問題です。
「訪問看護師さんには話したのに、先生はご存じなかった」「ケアマネさんが変わったら、これまでの経緯をゼロから説明することになった」——こうした声は、在宅医療の現場で毎日のように聞かれます。情報の分断は、単に不便というレベルにとどまらず、服薬の重複・副作用の見逃し・急変時の対応遅れといった医療安全上のリスクにもつながります。
私が理事長を務める医療法人鳳應会は、札幌・小樽を拠点に訪問診療・精神科・介護・オンライン診療を展開しています。日々の実践の中で痛感するのは、「良質な在宅ケアの前提は、良質な情報連携である」ということです。本記事では、医療・介護情報連携ネットワークの現状と課題を整理し、ICTがどのようにその分断を埋めようとしているかを、北海道の地域医療の視点からお伝えします。
日本の医療・介護情報連携が抱える構造的な課題
制度の縦割りが情報の壁をつくる
日本の医療と介護は、それぞれ異なる法律・財源・管轄省庁のもとで運営されています。医療は健康保険法に基づく医療保険、介護は介護保険法に基づく介護保険と、制度設計そのものが分立しています。この縦割り構造が、情報共有の仕組みにも反映されており、電子カルテシステムは病院・診療所ごとに異なるベンダーのシステムを使っていることが多く、介護事業所が使う記録システムとはほとんど連携していないのが現状です。
厚生労働省の調査によれば、在宅療養を支える多職種間での情報共有手段として、いまだにFAXや電話が主流であるという事業所が全体の60%以上を占めています。デジタル化が叫ばれる時代にあって、命に関わる情報がアナログな手段で伝達されているという現実は、医療従事者の一人として強い危機感を覚えます。
北海道特有の地理的・人的制約
北海道は国土面積の約22%を占める広大な地域であり、人口密度は全国最低水準です。札幌・旭川・函館といった主要都市を除けば、医療資源は著しく偏在しており、専門医へのアクセスが極めて限られた地域が数多く存在します。こうした地域では、在宅で療養する患者さんを複数の専門職が分散して支えざるを得ず、情報連携の重要性は都市部以上に高いと言えます。
加えて、北海道では冬季の積雪・悪天候によって訪問が困難になる状況が生じることがあります。道路状況によって訪問看護師やヘルパーが予定通り訪問できない場合、誰がどのタイミングでバックアップするかをあらかじめ多職種で共有しておくことが、在宅療養の継続において生死に関わる問題になり得ます。
情報連携の断絶が生む医療安全リスク
イギリスの医学誌BMJに掲載された研究(2020年)では、医療事故の約25%は職種間・施設間のコミュニケーション不全に起因するとの報告があります。在宅医療においても、病院から地域への「退院サマリー」が訪問診療医に届くタイミングが遅れる、あるいは内容が不十分であるために、服薬情報の確認が後手に回るケースが報告されています。日本医師会が2023年に公表した在宅医療実態調査でも、多職種連携の課題として「情報の伝達ラグ」と「情報の形式・量の不統一」が上位に挙げられています。
ICT活用による情報連携ネットワークの現在地
地域医療情報連携ネットワーク(EHR)の概念と普及状況
医療・介護のICT情報連携の中核的な仕組みとして、電子的健康記録(EHR:Electronic Health Record)を地域単位で共有するネットワークがあります。日本では「地域医療情報連携ネットワーク」と呼ばれ、全国各地で独自の取り組みが展開されています。代表的なものとして、神奈川県の「かなみんネット」、長崎県の「あじさいネット」、徳島県の「あわわネット」などが挙げられ、参加医療機関間で患者の検査データ・処方履歴・画像情報をリアルタイムに共有する仕組みが整っています。
厚生労働省の令和5年度の調査によると、何らかの地域医療情報連携ネットワークに参加している医療機関数は全国で約8,000施設に上り、5年前と比較して約2倍に増加しています。しかし、参加施設の多くは病院・診療所であり、介護事業所・薬局・訪問看護ステーションまで包括的に連携しているネットワークは、全体の約30%にとどまるとの推計があります。医療と介護の「最後の一哩(ラストマイル)」の連携こそが、今後の最重要課題と言えるでしょう。
多職種連携ツールとしてのICTプラットフォーム
近年急速に普及しているのが、在宅ケアに携わる多職種がリアルタイムに情報を共有・書き込みできるクラウド型のプラットフォームです。日本国内では「iBow」「カナミッく」「メディカルケアステーション(MCS)」などが代表的なサービスとして知られており、医師・看護師・ケアマネージャー・薬剤師・リハビリ職が一つのチャットや記録画面を共有することで、FAX・電話に代わるコミュニケーション手段として機能しています。
これらのプラットフォームの最大のメリットは、「誰かが記録した情報を、関係する全員がリアルタイムに閲覧できる」という点です。夜間に患者さんの状態が変化した際、訪問看護師が記録した所見を翌朝の訪問前に在宅医が確認できる。薬剤師が処方変更の内容を共有することで、ヘルパーが服薬支援の際に誤配薬を防ぐことができる——こうした情報の流れが、在宅ケアの安全性と質を大きく高める可能性を持っています。
電子処方箋・医療DX推進の国家的動向
国レベルでも、医療・介護のデジタル化は急速に進みつつあります。2023年1月から本格運用が始まった「電子処方箋」は、マイナンバーカードと連携した仕組みにより、全国の医療機関・薬局が処方・調剤情報をオンラインで共有できるものです。また、政府が掲げる「医療DX推進ロードマップ」では、2024年度以降に電子カルテ情報の標準化・全国共有が段階的に拡大されることが示されており、これが実現すれば医療機関間の情報断絶は大幅に改善されると期待されています。
在宅ケアにおけるICT連携の具体的な効果と事例
退院支援から在宅移行のシームレスな情報引き継ぎ
在宅ケアにおける情報連携の最初の関門は、「病院から地域への橋渡し」です。退院調整看護師・MSW(医療ソーシャルワーカー)・在宅主治医・ケアマネージャーが退院前カンファレンスで顔を合わせ、療養上の注意点・本人と家族の意向・必要なサービスを確認するプロセスは、以前から重要視されてきました。しかし、カンファレンスで共有された情報が、その後の日常的なケアの中で継続的に活用されるかどうかは、各職種の記録管理に委ねられていました。
ICTプラットフォームを活用すれば、退院前カンファレンスで確認した事項をクラウド上の共有スペースに記録しておくことで、その後に関わる全ての職種がいつでも参照できるようになります。ある地方都市の事例では、多職種ICT連携を導入した結果、退院後30日以内の再入院率が導入前と比較して約18%減少したという報告もあります。情報の「引き継ぎ漏れ」を防ぐことが、患者さんの安定した在宅生活の継続に直結するのです。
急変時・看取り期における迅速な情報共有
在宅療養中の急変は、いつ・どのタイミングで起きるかわかりません。深夜に患者さんの呼吸状態が変化した際、訪問看護師が状況をプラットフォームに記録することで、オンコール担当医がリアルタイムに状態を把握し、必要であればオンライン診療や往診の判断を迅速に行えます。看取り期においては、患者さんご本人やご家族の「最期はどこで、どのように過ごしたいか」という意思をACP(アドバンス・ケア・プランニング)として記録し、チーム全員が共有しておくことが、本人の意思に沿った看取りを実現する上で不可欠です。
ICT連携が最も力を発揮するのは、「緊急時に全員が同じ情報を持っている」という状態をつくることにある、と私は考えています。夜間・休日であっても、担当者が代わっても、患者さんに関わる根本的な情報が途切れないこと——これが在宅ケアの質と安全を守る最後の砦です。
認知症ケアにおける行動・心理情報の継続共有
認知症の方の在宅ケアでは、日々の行動・心理症状(BPSD)の変化を多職種で継続的に追うことが、適切なケアプランの立案に欠かせません。ヘルパーが「今日は食事を半分しか食べなかった」「夕方に強い不安状態があった」といった観察を記録すれば、医師はその変化を踏まえて薬の調整を検討できます。看護師が「浮腫が出てきた」という記録を残せば、かかりつけ医が訪問時に重点的に確認すべきポイントが明確になります。
こうした「気づきの連鎖」を生み出すのが、ICT情報連携の本質的な価値です。認知症の診断・治療は専門的な領域ですが、日々の生活の中での変化に最初に気づくのはヘルパーやご家族です。その気づきが医師に届く速度と精度を高めることが、認知症の方の在宅生活の長期継続を支えることにつながります。
オンライン診療と情報連携ネットワークの融合
オンライン診療が在宅連携に加わる意義
2022年の診療報酬改定により、オンライン診療は在宅医療の文脈でより柔軟に活用できるようになりました。特に「在宅時医学総合管理料」においてオンライン診療を組み合わせることが認められたことで、訪問診療と遠隔診療を組み合わせたハイブリッドな在宅ケアモデルが全国各地で試みられています。
オンライン診療が情報連携ネットワークと融合した際の最大の効果は、「医師のアクセス頻度の向上」にあります。月に1〜2回の訪問診療だけでは把握しきれない患者さんの日々の変化を、ビデオ通話による遠隔診療で補完し、その診察記録を多職種共有プラットフォームに記録することで、在宅ケアチーム全体が医師の判断をリアルタイムに知ることができます。これにより、訪問看護師やヘルパーが「先生はこの点に注意してほしいとおっしゃっていた」という情報を踏まえたケアを実施できるようになります。
精神科・メンタルヘルス分野でのオンライン連携
当法人グループの北海道オンラインクリニックでは、精神科のオンライン診療を展開しています。精神疾患を抱えながら在宅で生活される方の場合、精神科主治医・訪問看護師・ケアマネージャー・就労支援員など、より多様な職種が関わることがあります。この場合の情報連携は医療機関間にとどまらず、障害福祉サービス事業所・相談支援専門員まで含めた広域なチームが対象となります。
精神科のICT情報連携においては、プライバシーへの配慮が特に重要です。精神科の診療情報は、本人の同意のもとで共有範囲を慎重に設定する必要があります。当法人では、患者さん・ご家族と十分に話し合い、どの情報をどの職種と共有するかについて明確な合意形成を行った上で情報連携を進めることを原則としています。
ウェアラブルデバイス・IoMTとの連携可能性
近年注目されているのが、IoMT(Internet of Medical Things)——すなわち、血圧計・パルスオキシメーター・血糖センサー・転倒検知センサーなどの医療機器がインターネットを介してデータを自動送信し、医療者や多職種チームがモニタリングできる仕組みです。米国の医学誌NEJMに掲載された研究では、慢性心不全患者に対するリモートモニタリングが、入院率の有意な低下に寄与したとの報告があります。日本でも同様の取り組みが一部の在宅医療機関・大学病院で試験的に導入され始めています。
こうしたIoMTデータが情報連携ネットワークに統合されることで、「患者さんの状態変化を数値で早期に察知し、多職種で迅速に対応する」という予防的介入のサイクルが実現できます。特に心疾患・糖尿病・慢性呼吸器疾患など、日常的なモニタリングが重要な疾患を持つ方の在宅療養においては、大きな可能性を秘めていると考えられます。
情報連携を阻む壁——技術・制度・人材の課題
システムの互換性とデータ標準化の問題
ICT情報連携の普及を妨げている最大の技術的障壁が、システム間の「互換性のなさ」です。日本国内には数十種類以上の電子カルテシステムが存在し、データの形式・コード体系がシステムごとに異なるため、異なるシステム間での自動的な情報交換が困難です。政府はこの問題に対応するため、医療情報の標準規格として「FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)」の活用を推進しており、2024年度以降の電子カルテ標準化事業においてもFHIRが基盤として採用される予定です。
介護分野においては、介護記録ソフトウェアの標準化がさらに遅れており、医療側のシステムとのデータ連携は現状では個別の開発・連携契約に依存しているケースがほとんどです。厚生労働省は「科学的介護情報システム(LIFE)」の普及を通じて介護データの標準化・収集を進めていますが、そのデータが医療側と双方向に連携される仕組みづくりはこれからの課題です。
個人情報保護と患者同意の取り扱い
医療・介護情報の連携には、患者さんの個人情報・機微情報が含まれます。個人情報保護法および医療・介護の各ガイドラインは、情報の第三者提供に際して本人の同意を原則としており、情報連携ネットワークに参加する際には、患者さんへの十分な説明と書面による同意取得が求められます。しかし現場では、認知症や意思決定能力が低下した状態の患者さんの同意をどのように取り扱うか、ご家族の代諾と本人の意思の関係をどう整理するかなど、実務上の難しい問題が生じることがあります。
情報連携の「安心・安全」を担保するためには、技術的なセキュリティ対策(アクセス権限の設定・データの暗号化・ログ管理)と同時に、患者さん・ご家族との丁寧なコミュニケーションによる信頼関係の構築が不可欠です。デジタル化は手段であり、目的は患者さんにとって最善のケアを届けることであるという原点を、私たちは常に忘れないようにしています。
人材育成とデジタルリテラシーの格差
ICTツールをどれほど優れたものを導入しても、使う人材のデジタルリテラシーが追いつかなければ機能しません。在宅ケアに携わる職種は幅広く、年齢層も多様です。ケアマネージャーやホームヘルパーの中には、スマートフォンやタブレット操作に不慣れな方もいます。また、「新しいシステムを覚える時間がない」「入力が増えて現場の負担が上がる」という現場の声も無視できません。
情報連携ツールの定着には、導入時の丁寧な研修・継続的なサポート体制・操作が直感的なUI設計の三つが揃うことが重要と考えられています。地域の医師会・看護協会・介護福祉士会などが連携してICT研修プログラムを整備する取り組みも、一部の地域で始まっています。北海道においても、こうした人材育成の基盤づくりが急務です。
北海道・道内自治体の取り組みと先進的モデル
北海道が直面する医師偏在と情報連携の必要性
北海道は、医師偏在問題が全国で最も深刻な地域の一つです。厚生労働省が公表する「医師偏在指標」において、北海道内の多くの二次医療圏が医師少数区域に指定されており、専門医へのアクセスが著しく制限されている地域が多数存在します。こうした地域では、在宅療養を支える訪問診療医が広範なエリアを担当しなければならず、一人の医師が複数の患者さんをカバーするために移動に多大な時間を費やしています。
このような状況下では、ICT情報連携はもはや「あれば便利なもの」ではなく、「なければ成り立たないもの」です。訪問できる頻度が限られている分、訪問と訪問の間の患者さんの状態を多職種がリレーして支え、その情報を医師に届ける仕組みが、在宅療養の継続を可能にします。オンライン診療との組み合わせも、移動時間の削減と診療機会の増加に直接貢献します。
道内の先進的な取り組み事例
北海道内でも、ICT活用による在宅ケア連携の先進的な取り組みが生まれています。函館市では、在宅療養支援診療所・訪問看護ステーション・薬局・介護事業所が共通のクラウドプラットフォームを活用した「函館在宅ケアネットワーク」が形成され、多職種間の情報共有と顔の見える関係づくりが進んでいます。帯広市では、地域の医師会主導で電子連絡ノートシステムを導入し、退院支援から在宅移行までの情報引き継ぎのデジタル化が図られています。
こうした取り組みに共通するのは、「ツールの導入」よりも「顔の見える多職種連携の文化づくり」を先行させているという点です。デジタルツールは、すでに信頼関係がある多職種チームの情報共有をさらに円滑にする「촉진剤」として機能します。逆に、人間関係の基盤がないところにツールだけを投入しても、活用されないまま終わることが多いという教訓は、先行事例から学ぶべき重要な点です。
介護DX推進と地域包括ケアシステムの連動
政府は「介護DX推進ロードマップ」において、2026年度までに全ての介護事業所がICTを活用した記録・情報共有を行える環境整備を目指す方針を示しています。介護ロボット・センサー・記録ソフトの導入補助に加え、「科学的介護」に基づくエビデンスの蓄積と活用が推進されています。これらの取り組みが地域包括ケアシステムの構築と連動することで、医療・介護・生活支援が一体となった情報連携の基盤が整うことが期待されます。
地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される体制のことです。2025年(団塊の世代が75歳以上となる年)を目標に、全国の市区町村で整備が進められています。ICTによる情報連携は、このシステムの実効性を高める重要な基盤技術と位置づけられています。
医療法人鳳應会が描く「つながるケア」の実践と読者へのメッセージ
鳳應会の多職種連携・ICT活用の取り組み
医療法人鳳應会は、訪問診療・精神科・介護・オンライン診療・産業医・美容医療・医療法務という多様な機能を一体的に展開する複合型の医療法人です。グループ内の多職種が日々の診療・ケアで連携する中で、私たちが実感しているのは、「情報が共有されているチームは、患者さんに届けるケアの質が明らかに違う」ということです。
当法人では、ICTプラットフォームを活用した多職種連携の仕組みづくりに継続的に取り組んでいます。訪問診療チームと訪問看護師・ケアマネージャーとのリアルタイム情報共有、北海道オンラインクリニックによる精神科オンライン診療と地域の相談支援専門員との連携、Medi Faceを通じた精神科DXの推進——これらは、「情報の断絶をなくし、患者さんを支え抜く」という鳳應会の理念を実践するための具体的な取り組みです。
「病を治す」から「人生を支え抜く」へ
私が医師として在宅医療・地域医療に携わる中で、繰り返し考えることがあります。「良い治療とは何か」という問いです。病院での最先端治療を施すことだけが医師の仕事ではありません。患者さんが自分の家で、家族と過ごし、好きなものを食べ、その人らしい時間を送れるよう支えること——それこそが、在宅医療の本質であり、私たちが目指すケアの形です。
そのために必要なのは、医師だけの力ではありません。看護師・ケアマネージャー・薬剤師・ヘルパー・リハビリ職・ご家族、そしてテクノロジーの力が一つになって初めて、切れ目のない在宅ケアが実現します。ICTはその「つながり」を強くするための道具です。
読者の皆様へ——まずは「つながり」の第一歩を
在宅療養中の患者さんご本人、あるいはそのご家族の方へ。「担当者が変わるたびに一から説明している」「医師と介護スタッフが同じ情報を持っているか不安」「急変時にどうすればよいかわからない」——そのような不安や疑問があれば、ぜひ主治医やケアマネージャーに「情報共有の仕組みを整えたい」と伝えていただくことをお勧めします。
医療・介護従事者の方へ。ICT情報連携の導入は、小さな一歩から始めることができます。まずは現在のチームで「情報共有に課題はないか」を話し合い、簡単なツールからトライアルすることが、変化への第一歩です。医療法人鳳應会では、地域の医療・介護関係者の皆様との連携・情報交換も積極的に行っています。
本記事に記載した制度・報酬・ガイドラインの情報は、2024年時点のものをもとに執筆しています。医療制度・介護保険制度は改定が行われることがありますので、最新情報は厚生労働省・各都道府県・医師会等の公式情報をご確認ください。
よくある質問
Q. 医療・介護情報連携ネットワークに参加するにはどうすればいいですか?
A. 患者さん個人が直接参加するものではなく、かかりつけ医・訪問看護ステーション・ケアマネージャーなどが地域のネットワークに加入することで、関わる多職種間で情報が共有される仕組みです。ご自身の情報を連携してほしい場合は、まずかかりつけ医やケアマネージャーに「情報共有の仕組みがあるか」を確認し、同意書の手続きについて相談されることをお勧めします。
Q. 情報連携ネットワークに情報を登録することで、個人情報が漏れる心配はありませんか?
A. 地域医療情報連携ネットワークは、アクセス権限の厳格な管理・データの暗号化・ログ監視などのセキュリティ対策が取られています。また、患者さん本人の同意のもとで参加する仕組みになっており、本人が閲覧・共有を望まない情報については設定で制限できる場合があります。ただし、完全にゼロリスクとは言い切れないため、参加前に仕組みについて担当者から十分な説明を受けることが重要です。
Q. 北海道の僻地・過疎地でも在宅ICT連携は利用できますか?
A. インターネット環境さえあれば、クラウド型の多職種連携プラットフォームは北海道の僻地でも利用可能です。北海道では光ファイバーやモバイル回線の整備が進んでおり、多くの地域で利用できるようになっています。また、オンライン診療との組み合わせにより、専門医へのアクセスが困難な地域でも遠隔で診療を受けることができる可能性があります。具体的な利用環境については、主治医や地域の在宅療養支援診療所にご相談ください。
Q. オンライン診療と訪問診療はどう使い分ければいいですか?
A. オンライン診療は、直接の触診・聴診が必要でない状況での状態確認・処方調整・相談に適しており、訪問診療は身体診察・処置・検査・看取りなど直接対面が必要な場面に適しています。多くの在宅医療の現場では、定期的な訪問診療を基本としながら、状態変化の早期把握や相談にオンライン診療を補完的に活用するハイブリッドモデルが有効と考えられています。どちらが適しているかは患者さんの状態・ニーズによって異なりますので、主治医とご相談ください。
Q. 認知症の家族がいますが、ICT情報連携を活用することで何か変わりますか?
A. 認知症ケアにおいては、日々の行動・食事・睡眠・心理状態の変化を多職種が継続的に把握することが適切なケアの鍵になります。ICT連携プラットフォームを活用することで、ヘルパーが気づいた小さな変化を医師やケアマネージャーがリアルタイムに把握でき、早期対応につながる可能性があります。また、ご家族が日中の様子を記録・共有することで、ご家族の「気づき」がケアチームに届きやすくなります。具体的な活用方法については、ケアマネージャーや担当の医療機関にご相談ください。
まとめ
本記事では、医療・介護情報連携ネットワークの現状と課題、ICT活用による切れ目のない在宅ケアの実現可能性について、北海道・札幌の地域医療の視点からお伝えしました。要点を以下に整理します。
- 日本の医療・介護は制度の縦割り構造により情報が分断されており、FAX・電話依存のコミュニケーションが在宅ケアの質と安全に影響を与えている可能性がある。
- 地域医療情報連携ネットワーク・クラウド型多職種連携プラットフォーム・電子処方箋など、ICT活用による情報連携の仕組みが全国で普及しつつあるが、介護事業所まで包括した連携は約30%にとどまっている。
- オンライン診療との組み合わせにより、訪問診療だけでは補いきれない日常的な状態把握と早期対応が可能になり、特に医師不足が深刻な北海道の僻地・過疎地での有効性が期待される。
- ICT連携の普及を妨げる課題としては、システムの互換性・個人情報保護の取り扱い・人材のデジタルリテラシー格差があり、技術・制度・教育の三層での取り組みが必要である。
- 医療法人鳳應会は、訪問診療・精神科オンライン診療・介護DXを通じて、ICTを活用した多職種連携の実践に継続的に取り組んでいる。
- 「情報がつながっているチームは、患者さんに届けるケアの質が違う」——在宅療養中の方・ご家族・医療介護従事者の方は、情報連携の仕組みについてかかりつけ医やケアマネージャーにご相談いただくことをお勧めする。
「在宅ケアに関わる情報連携をもっと整えたい」「訪問診療やオンライン診療の活用を検討したい」「地域の医療・介護連携についてご相談したい」という方は、ぜひ医療法人鳳應会にお気軽にご相談ください。私たちは、患者さんお一人おひとりの「人生を支え抜く」ために、テクノロジーと人のつながりを融合した最善のケアを届けるべく、日々実践を続けています。
【参考資料】厚生労働省「令和5年度在宅医療の体制構築に係る指針」/日本医師会「在宅医療実態調査(2023年)」/厚生労働省「医療DX推進ロードマップ(2023年)」/BMJ 2020; 371:Communication failures and patient safety in healthcare settings / NEJM 2021; 384:Remote Patient Monitoring in Heart Failure / 厚生労働省「介護DX推進ロードマップ(2024年)」