北海道の職場の実情と、今回の法改正がもたらす衝撃

「うちはまだ20人ほどの小さな会社だから、ストレスチェックは関係ない話だと思っていました」——余市のりんご農園を経営する社長からこんな言葉をいただいたのは、つい最近のことです。函館の小さな旅館の女将、釧路の水産加工会社の社長、帯広の建設会社の経営者……北海道の小規模事業場を巡るなかで、同じような声を何度耳にしたかわかりません。

しかし、2026年5月に成立した労働安全衛生法の改正により、その前提が大きく変わります。令和9年(2027年)4月1日から、従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務付けられるのです。北海道の事業場の実に9割以上が50人未満の小規模事業場であることを考えると、この改正が地域経済に与えるインパクトは計り知れません。

とはいえ、私はこの改正を「面倒な義務がひとつ増えた」とは捉えていません。むしろ、北海道の地域医療を担う産業医として、長年感じてきた「切り捨てられてきた小規模職場の心の健康問題」にようやく光が当たったと感じています。このコラムでは、法改正の内容をわかりやすく整理しながら、北海道の小規模事業場がいかにこの変化をチャンスとして活かせるか、具体的にお伝えしたいと思います。

POINT — このコラムで分かること

  • 50人未満への義務化の内容と2027年4月の施行スケジュール
  • 北海道の農業・漁業・観光業・建設業など地方産業特有のストレス実態
  • 小規模事業場でも今すぐ始められる5つの準備ステップ
  • オンライン産業医・鳳應会グループによる支援の活用法

ストレスチェック義務化の全容——改正の背景と意義

そもそもストレスチェック制度とは何か

ストレスチェック制度は、2015年12月に労働安全衛生法の改正により、常時50人以上の従業員を雇用する事業場に義務付けられた取り組みです。年1回以上、専門家が実施する心理的負荷の検査(ストレスチェック)を行い、高ストレスと判定された従業員に対して医師による面接指導を勧奨する仕組みです。

制度の核心は「一次予防」——つまり、メンタル不調が深刻化する前の段階で職場全体のリスクを把握し、環境改善につなげるという発想にあります。従来の「不調になってから病院へ」という二次・三次予防から、「不調になる前に職場で守る」という考え方への転換です。これは、地域医療の現場で私が日々推進している予防医学の考え方と完全に重なります。

なぜ今、50人未満への義務化なのか

2015年の制度開始から10年が経過し、50人以上の事業場では制度がある程度定着してきました。しかし、日本の全事業場の約8割、北海道に限れば9割以上を占める50人未満の小規模事業場は、これまで「努力義務」という曖昧な立ち位置に置かれ、実施率はわずか30〜40%程度にとどまっていました。

その間、小規模事業場における過労自殺や精神障害による労災申請は増加の一途をたどりました。人員的な余裕がなく一人に業務が集中しやすい、相談できる窓口がない、社長と従業員の距離が近すぎてかえって本音を言えない——そうした構造的な問題が放置されてきたのです。今回の義務化は、10年越しの「見落とし」を修正する重要な一歩といえます。

改正前後の比較:何が変わるのか

項目 改正前(2026年度まで) 改正後(2027年4月〜)
対象事業場 常時50人以上の労働者を使用する事業場 すべての事業場(50人未満も含む)
50人未満の位置づけ 努力義務(実施推奨だが義務ではない) 義務(年1回以上の実施が必須)
実施頻度 年1回以上(50人以上) 年1回以上(全事業場)
高ストレス者への対応 面接指導の勧奨(50人以上) 面接指導の勧奨(全事業場)
労基署への報告 50人以上が年1回報告義務あり 50人未満についての報告義務の詳細は省令で規定予定
未実施の罰則 50万円以下の罰金(50人以上) 同様の罰則が全事業場に適用される見込み

IMPORTANT — 義務化の3本柱

  • 年1回以上のストレスチェック実施:医師・保健師などの専門家が実施者となり、全従業員(業務委託・派遣は原則対象外)に対して実施します
  • 高ストレス者への面接指導の勧奨:高ストレス判定が出た従業員に、医師による面接指導を申し出る機会を提供します(強制ではありません)
  • 集団分析と職場環境改善への努力:部署単位での分析結果をもとに、職場環境の改善に取り組む努力義務があります

北海道・地方の中小企業が直面するメンタルヘルスの現実

数字が語る地方の過酷さ

厚生労働省の「過労死等の防止のための対策に関する大綱」によれば、精神障害による労災認定件数は全国で年々増加しており、2023年度には過去最多を更新しました。特に注目すべきは、製造業・建設業・運輸業・農業といった北海道の基幹産業での発生件数が相対的に高い点です。

北海道立精神保健福祉センターのデータでは、道内の精神科外来受診者数は人口10万人あたりで全国平均を上回っています。札幌・旭川・函館といった都市部だけでなく、オホーツクや根釧地方など農漁業地帯でも、うつ病や不安障害の受診者が増加傾向にあります。都市部には精神科・心療内科へのアクセスがまだあるとしても、地方では「何か月待ち」という現実が当たり前で、受診自体を諦めているケースも少なくありません。

産業ごとに異なるストレスの構造

農業(十勝・空知・道南など):天候リスクや農産物価格の不安定さによる慢性的な経営不安。季節的な長時間労働と冬季の孤立感。後継者問題や高齢化による将来不安。外国人技能実習生との意思疎通困難によるコミュニケーションストレス。

漁業(オホーツク・根室・日高など):危険な就労環境と体への負担。漁獲量の不安定さと収入の不規則性。沿岸漁業・養殖業では家族経営が多く、家庭内ストレスが仕事に直結する。冬季の休漁期間中の孤立。

観光業・宿泊業(ニセコ・登別・知床・富良野など):国内外の旅行需要の季節変動による雇用不安定。インバウンド対応の言語的プレッシャー。繁忙期の極端な過重労働と閑散期の収入減少。ニセコ地区では外資系企業の進出による職場文化の変化への戸惑い。

建設業(道内全域):北海道特有の冬季施工困難による工期プレッシャー。人手不足による一人当たり業務負荷の増大。高齢化と若手離れによる技術承継ストレス。屋外作業の身体的過酷さと精神的プレッシャーの複合ストレス。

INSIGHT — 地方の小規模職場に特有の「孤立型ストレス」

都市部の大企業と異なり、北海道の地方小規模職場では「誰にも言えない」という孤立型のストレスが深刻です。社員数が少ないため、上司や経営者に不満や悩みを打ち明けると「すぐ誰かに伝わる」と感じて沈黙を選ぶ従業員が多い。結果として、ストレスが水面下で蓄積し、ある日突然の離職や休職として噴出するパターンが後を絶ちません。ストレスチェックは、こうした「言えない声」を数値として可視化する唯一に近い公式ツールです。

50人未満とはどういう規模か——職場の人間関係とストレス構造

「全員が顔見知り」の職場が持つ二面性

50人未満の職場は、全員が名前と顔を知っている規模です。これは大きな強みでもあります。コミュニケーションが速く、困ったときにすぐ声を掛け合える。経営者と従業員の距離が近く、事業の意義や方向性を直接共有できる。北海道の地方でこのような職場を訪問すると、都会の大企業では味わえない人間的なつながりの温かさを感じます。

しかしその「近さ」は、同時にストレスの温床にもなります。嫌いな上司からも逃げ場がない。派閥や人間関係の問題が職場全体を覆ってしまう。評価が主観的になりやすく、不公平感が生じやすい。50人未満の事業場で最もよく聞く離職理由は「人間関係」であり、これは大企業よりも小規模事業場のほうが高い傾向があります。

規模別ストレス特性の違い

規模 主なストレス要因 保健体制の現状
300人以上(大企業) 競争プレッシャー、組織の複雑さ、成果主義 産業医・保健師・EAP等が整備されている
50〜300人(中規模) 役割の曖昧さ、コミュニケーション不全、業務の偏在 産業医は選任義務あり、保健師は任意
10〜49人(小規模) 人間関係の閉鎖性、多能工化による疲弊、経営不安 産業医選任義務なし・専門支援ほぼゼロが多数
10人未満(零細) 経営者と従業員の境界曖昧、家族的圧力、孤立 産業保健の空白地帯

この表が示す通り、10〜49人の小規模事業場は「産業保健の空白地帯」といっても過言ではありませんでした。ストレスチェック義務化は、この空白を埋める歴史的な転換点です。

経営者自身のメンタルヘルスも忘れずに

小規模事業場の議論でしばしば見落とされるのが、経営者・事業主自身のメンタルヘルスです。ストレスチェックの実施義務は事業者(経営者)に課されますが、経営者本人は労働者ではないため、制度上は対象外です。しかし現実には、小規模事業場の経営者こそが最も激しいストレスにさらされていることが多い。資金繰り、人手不足、後継者問題、コロナ禍の傷跡——北海道の中小企業の社長さんたちと膝を突き合わせて話すたびに、その重さを感じます。ストレスチェックの導入を機に、経営者自身も自分の心の健康を振り返るきっかけにしていただきたいと思います。

いつから義務化されるのか——施行スケジュールと準備期間

2027年4月1日が施行日

改正労働安全衛生法における50人未満への義務化は、令和9年(2027年)4月1日が施行日とされています(2026年5月成立時点の政府発表に基づく)。施行後の最初の「義務実施期間」は2027年4月〜2028年3月の1年間となり、この期間内に少なくとも1回のストレスチェックを実施する必要があります。

「2027年4月まで1年半以上ある」と感じる方もいるかもしれませんが、以下のタイムラインを見ていただくと、準備が急がれることがわかります。

時期 推奨アクション
2026年10月〜12月 制度の全体像を把握・社内勉強会の実施・産業医候補のリサーチ
2027年1月〜2月 ストレスチェック実施機関または産業医の選定・契約
2027年3月 衛生委員会(または代替機関)での審議・実施規程の整備
2027年4月〜 義務化開始・最初のストレスチェック実施(年内に1回)
2027年度内 高ストレス者への面接指導対応・集団分析と職場改善

ATTENTION — 「義務化まで時間がある」は危険な油断

北海道では産業医の需給がひっ迫しており、特に都市部から離れた地域では産業医を探すこと自体が困難なケースがあります。また、外部の実施機関に委託する場合も、2027年春には問い合わせが集中して対応が遅れる可能性があります。余裕をもって動き始めることが、スムーズな義務化対応の鍵です。今この瞬間から準備を始めることをお勧めします。

北海道の企業が今すぐできる5つの準備

準備1. 自社の「労働者数」を正確に把握する

ストレスチェック義務化の対象となる「労働者数」のカウントには注意が必要です。アルバイト・パートタイム労働者であっても、週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上であれば「常時使用する労働者」に含まれます。季節雇用が多い北海道の農業・観光業では、繁忙期と閑散期で頭数が変わるため、「年間を通じて50人以上になる時期がある事業場」は早めに確認が必要です。

また、複数の事業場を持つ場合は「事業場単位」でのカウントとなります。本社50人未満・支店10人という構成であれば、それぞれが義務化の対象となります。

準備2. 実施体制の選択肢を検討する

ストレスチェックの「実施者」は、医師・保健師・一定の研修を受けた看護師・精神保健福祉士が担当できます。小規模事業場が選べる実施体制の主なパターンは以下の通りです。

  • 産業医への委託:新たに産業医契約を結び、ストレスチェック実施から面接指導まで一括して依頼する。最も包括的だが費用がかかる
  • 外部実施機関への委託:EAP機関や産業保健コンサルタント会社に実施だけ委託し、高ストレス者の面接指導は別途医師に依頼する
  • 北海道産業保健総合支援センターの活用:50人未満の事業場向けに、無料または低コストでのストレスチェック支援を提供している(札幌に本部、道内各地に地域産業保健センターあり)
  • オンライン産業医サービスの利用:Z産業医事務所・北海道オンラインクリニックのようなオンライン対応の産業医事務所を活用し、地理的制約を超えたサポートを受ける

準備3. 衛生委員会または代替機能を整える

50人以上の事業場には衛生委員会の設置が義務付けられており、ストレスチェックの実施計画もここで審議します。50人未満の事業場には衛生委員会の設置義務はありませんが、ストレスチェック実施にあたっては「実施方法・実施時期・実施者・高ストレス者への対応方針」などを事前に決定・記録しておくことが求められます。これは従業員との信頼関係を守るためにも重要です。

準備4. 従業員への説明と不安払拭を先行させる

ストレスチェックが義務化されても、従業員が「結果が上司に知られるのでは」「高ストレスと出たら不利益を受けるのでは」と不安に感じていれば、誠実な回答が得られず制度の意味が失われます。制度導入の前に、以下の点を全従業員に丁寧に説明することが不可欠です。

  • 個人の結果は本人の同意なしに事業者に開示されない
  • 高ストレス判定を理由とした解雇・降格・減給などの不利益取り扱いは法律で禁止されている
  • 面接指導の申し出は任意であり、強制されない
  • 制度の目的は職場環境の改善であり、個人の選別ではない

準備5. 結果を「活かす」仕組みを最初から設計する

多くの事業場が陥る失敗は、「実施するだけ」で終わってしまうことです。ストレスチェックは実施した後の「集団分析→課題抽出→改善策の立案・実行→翌年度の評価」というサイクルが機能してこそ本来の価値を発揮します。産業医や外部機関と連携して、結果を職場改善に結び付けるプロセスを最初から設計に組み込んでください。

CHECK — 準備状況の自己点検リスト

  • 自社の常時使用労働者数(アルバイト・パートを含む)を正確に把握している
  • ストレスチェックの実施者(産業医・外部機関)の候補を調べ始めている
  • 北海道産業保健総合支援センターの無料支援制度を確認した
  • 従業員へのストレスチェック制度説明の機会を計画している
  • 集団分析結果をどのように職場改善に活かすか、大枠のイメージがある

産業医の選び方——北海道・地方でのオンライン活用

北海道の産業医不足という現実

北海道は面積の広大さと人口の偏在から、産業医資源の分布に著しい格差があります。札幌・旭川・函館などの都市部には産業医として活動できる医師が一定数いますが、釧路・帯広・北見・留萌・稚内・根室など地方都市、さらにその周辺の農村部・漁村部では産業医を探すこと自体が困難です。

日本産業衛生学会の推計では、北海道の産業医充足率は全国平均を下回っており、特に50人未満の小規模事業場への対応は慢性的に不足しています。しかし、コロナ禍を経てオンラインでの産業医業務が普及したことで、この地理的制約はかなりの部分が解消されつつあります。

オンライン産業医の具体的な活用方法

オンライン産業医サービスでは、以下の業務をリモートで対応することが可能になっています。

  • ストレスチェックの実施者としての役割:オンラインシステムを活用し、従業員への事前説明・結果確認・高ストレス者の判定を遠隔で実施
  • 高ストレス者への面接指導:ビデオ通話による面接指導(労働安全衛生規則の改正によりオンライン面接が正式に認められています)
  • 職場巡視:年1回以上の巡視義務がありますが、ビデオ通話で職場環境を確認する「オンライン巡視」が認められるケースが増えています
  • 衛生委員会(または担当者会議)への参加:オンラインでの参加が定着しています

産業医選定の際に確認すべきポイント

産業医を選ぶ際には、医師免許と産業医資格(日本医師会認定産業医または労働衛生コンサルタント)の確認は当然として、特に小規模事業場が確認すべき点があります。

  • 50人未満・小規模事業場の対応実績があるか
  • 農業・漁業・観光業・建設業など地方産業への理解があるか
  • 精神科・心療内科の専門性があるか(メンタルヘルス支援の質に直結する)
  • 高ストレス者から専門医受診が必要な場合の地域医療機関との連携体制があるか
  • 費用体系が明確で、小規模事業場でも負担できる料金設定か

NOTE — 地域連携の重要性

ストレスチェックで発見された高ストレス者が産業医面接を経て精神科受診が必要と判断されたとき、地域に受け皿となる医療機関があることが不可欠です。Z産業医事務所では、北海道オンラインクリニックやFRAISE CLINICなどとの連携体制を整えており、産業保健から地域医療へのシームレスな橋渡しが可能です。産業医契約を検討する際は、このような「地域医療ネットワーク」を持つ機関を選ぶことを強くお勧めします。

鳳應会としての支援体制——地域医療・訪問診療との接続

医療法人鳳應会グループが提供できること

医療法人鳳應会は、北海道を拠点に地域医療・訪問診療・産業保健・医療DXを一体的に推進する医療機関グループです。代表理事長の近澤 徹は、日本医師会認定産業医として道内100社以上の産業医サービスを提供してきた実績を持ち、精神科医・産業医の両方の専門性を活かした包括的な支援が可能です。

グループが運営する主要施設と、ストレスチェック義務化対応における各施設の役割は以下の通りです。

Z産業医事務所——産業保健の専門窓口

Z産業医事務所は、北海道の中小企業・小規模事業場を専門にサポートする産業医事務所です。オンライン産業医サービスを中心に、以下を提供しています。

  • ストレスチェックの実施計画策定から実施・結果分析まで一括サポート
  • 高ストレス者への医師面接指導(オンライン対応)
  • 集団分析結果をもとにした職場環境改善アドバイス
  • 衛生委員会(担当者会議)へのオンライン参加
  • 産業医選任義務のない50人未満事業場への「産業医的サポート」の継続提供

北海道全域をオンラインでカバーするため、釧路・帯広・北見・稚内・根室など、これまで産業保健の空白地帯とされてきた地域の事業場でも利用可能です。

北海道オンラインクリニック——メンタルヘルス支援の受け皿

北海道オンラインクリニックは、精神科・心療内科のオンライン診療に特化したクリニックです。ストレスチェックで高ストレス判定が出た従業員や、面接指導を経て専門的な治療が必要と判断された方のファーストアクセスとして機能します。

地方では精神科受診に「数か月待ち」が珍しくありませんが、北海道オンラインクリニックはオンライン診療の特性を活かし、比較的速やかな初診対応が可能です。産業医(Z産業医事務所)から医療(北海道オンラインクリニック)へのスムーズな橋渡しにより、「産業保健で発見→医療機関で治療→職場復帰支援」という一貫した支援が実現します。

FRAISE CLINIC——総合クリニックとしての地域密着機能

FRAISE CLINIC(フレーズクリニック)は、札幌を拠点とする総合クリニックです。精神科・心療内科に加えて内科・皮膚科など複数の診療科を持ち、メンタルヘルスの問題を身体的な健康問題と並行して診る統合的なケアを提供しています。特に、職場のストレスが身体症状(頭痛・不眠・消化器症状など)として表れるケースでは、身体診療との連携が重要であり、FRAISE CLINICはその役割を果たします。

地域医療・訪問診療との連携

鳳應会は訪問診療部門を持ち、高齢者施設・在宅患者への定期的な医療提供を行っています。実はこの訪問診療のネットワークが、地方の小規模事業場への産業保健支援にも活きています。地方の農村部や漁村部を定期訪問する医師が、同じ地域の小規模事業場の産業保健ニーズにも対応できる体制——これは都市部の産業保健機関にはない、北海道の地域医療に根ざした鳳應会ならではの強みです。

ストレスチェックを「形式」から「文化」に変えるために

義務をきっかけに、職場の「対話」を育てる

ストレスチェックが「形式的な義務」に終わるか、「職場文化を変える入口」になるかは、経営者の姿勢次第です。私が見てきた中で、ストレスチェックをうまく活用できている職場には共通する特徴があります。それは、経営者自身がストレスチェックの結果を「職場の課題」として真剣に受け止め、従業員と一緒に改善を考える姿勢を示していることです。

集団分析の結果を見て「うちの部署はこういう傾向があるんだね。どうしたらいいと思う?」と従業員に語りかける上司がいる職場は、確実に変わっていきます。数字を「問題を探すためのツール」ではなく「対話を始めるためのきっかけ」として使う——この発想の転換が、義務化をチャンスに変える核心です。

メンタルヘルスへの投資は、経営課題そのもの

「小さな会社にそんな余裕はない」と思う経営者もいるかもしれません。しかし、一人の従業員がメンタル不調で長期休業した場合の直接コスト(代替人員の採用・教育費、保険料の影響など)と間接コスト(生産性の低下、残った従業員への負荷増大、離職連鎖など)を試算すると、その金額はストレスチェックの実施コストをはるかに上回ります。

予防医学の世界では「1ドルの予防投資は7ドルの医療費削減に相当する」という概念がありますが、産業保健においても同様の考え方が成立します。ストレスチェックへの投資は、将来の大きなコストを回避するための先行投資なのです。

「北海道の小さな職場を守ることが、地域医療の根幹を守ることだと信じています。働く人が心身ともに健やかであってこそ、地域経済も地域医療も持続できる。ストレスチェックの義務化は、その大切な一歩だと思っています。」——近澤 徹

制度を「文化」にするための5つの習慣

  • 結果の共有と対話:集団分析の結果を従業員全員にフィードバックし、一緒に課題を話し合う場を毎年設ける
  • 改善の見える化:前年度の課題に対して何を変えたかを「職場改善レポート」として共有し、会社が動いていることを示す
  • 相談しやすい雰囲気の醸成:高ストレス者の面接申し出が職場内で自然なこととして受け入れられるよう、管理職への教育を継続する
  • ストレスチェック以外の日常的なケア:月1回の1on1面談、匿名の意見箱、産業医への気軽な相談窓口など、チェック以外のルートを複数持つ
  • 経営者自身のウェルビーイング:経営者が自分の心の健康を大切にし、「弱さを見せられる」存在でいることが、職場全体の心理的安全性の基盤になる

よくある質問(Q&A)

Q 50人未満の事業場のストレスチェック義務化はいつからですか?
令和9年(2027年)4月1日施行予定です。労働安全衛生法の改正により、従来は努力義務とされていた50人未満の事業場にも年1回以上のストレスチェック実施が義務付けられます。施行まで約1年半の準備期間がありますが、産業医との契約や実施体制の整備には時間がかかるため、今から準備を始めることをお勧めします。
Q 産業医がいない小規模事業場でもストレスチェックを実施できますか?
はい、実施できます。50人未満の事業場は産業医の選任義務がありませんが、ストレスチェックの実施者は産業医・保健師・厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師・精神保健福祉士などが担当できます。外部の産業保健機関(産業医事務所)に委託する方法や、北海道産業保健総合支援センターの無料支援を活用する方法もあります。Z産業医事務所ではオンラインでの産業医契約も提供しています。
Q ストレスチェックの結果は社長や上司に知られますか?
原則として、従業員本人の同意なしに個人の結果が事業者に開示されることはありません。労働安全衛生法により、本人が同意した場合を除き、実施者から事業者への個人結果の提供は禁止されています。ただし、10人以上の集団を対象とした集団分析の結果は事業者も確認できます。小規模事業場では「上司に知られるのでは」という不安が受検拒否につながることがあるため、事前の丁寧な説明が重要です。
Q 農業・漁業・観光業など季節性の強い北海道の職場でも年1回の実施は可能ですか?
はい、可能です。農業・漁業・観光業は繁忙期と閑散期の差が大きいため、閑散期(農業なら冬季、観光業なら春・秋など)に実施するのが現実的です。重要なのは、繁忙期のピーク後に実施することで「疲弊した状態」を正確に把握できるという点です。実施時期は事業特性に合わせて自由に設定できます。オンライン実施システムを利用すれば、出張・外出が多い農繁期でもスマートフォンで回答できるため、実施率も向上します。
Q 義務化に対応しなかった場合の罰則はありますか?
現行の50人以上の義務においては、ストレスチェック未実施の場合、労働基準監督署への報告義務違反として50万円以下の罰金が定められています(労働安全衛生法第120条)。2027年4月施行後は50人未満の事業場も同様の罰則対象になる見込みです。ただし、罰則を恐れるだけでなく、「義務化をきっかけに職場環境を見直す機会にする」という前向きな姿勢が、長期的に見てより大きなメリットをもたらします。

まとめ

令和9年(2027年)4月1日から、50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化されます。北海道の事業場の9割以上がこの対象となる今回の改正は、地域経済を下支えする小規模事業場の「メンタルヘルスの空白」を初めて公式に埋める歴史的な転換点です。

農業・漁業・観光業・建設業と多様な産業が存在する北海道の職場は、それぞれ固有のストレス構造を抱えています。そして、50人未満という規模の職場には「近さ」がもたらす人間関係の閉鎖性、逃げ場のなさという特有の難しさがあります。だからこそ、ストレスチェックという「客観的に声を拾うツール」の意義は、大企業よりも小規模事業場においてこそ大きいと、私は確信しています。

義務化への準備として、まず行っていただきたいことをまとめると、①自社の常時使用労働者数の確認、②産業医・外部実施機関のリサーチ、③北海道産業保健総合支援センターへの相談、④従業員への丁寧な事前説明、⑤結果活用の仕組みづくり——この5つです。

鳳應会グループ(Z産業医事務所・北海道オンラインクリニック・FRAISE CLINIC)は、北海道の小規模事業場がストレスチェック義務化を円滑に乗り越え、それを「職場を良くするきっかけ」に変えるための伴走支援を提供しています。地域の職場の心の健康を守ることが、地域医療の持続そのものにつながる——その信念を持って、これからも北海道の皆さんに寄り添ってまいります。

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